セミナー

日時

2019年9月2日(月) 15:00~

場所

東京大学 理学部1号館 4階413号室

講演者

金澤輝代士氏(筑波大学)

タイトル

Lévy flightの統計力学:生物物理系におけるミクロモデルからの導出

概要

 統計力学において拡散現象は重要なトピックである.最も素朴な拡散現象は「通常拡散」であり,典型的にはブラウン運動で記述され,その変位はガウス分布に従う.ブラウン運動を統計力学として理解することは古くから試みられてきたことであり,例えばニュートン力学を出発点に,ボルツマン方程式,ランジュバン方程式を漸近的に導く運動論に基づく数理的な枠組み[1]や,射影演算子法に基づく導出[2]などがよく知られている.

一方,通常拡散の枠組みに当てはまらない「異常拡散」と呼ばれる拡散現象も存在する.異常拡散の典型例の一つはLévy flightと呼ばれるモデルであり,変位幅が冪分布に従うため,間欠的に大きなジャンプを示す数理モデルとなっている.Lévy flightは非平衡のモデルであり,乱流,生物,経済などの幅広い分野で観測され大きな着目を浴びてきた.

それではLévy flightを統計力学として導出するにはどうすればよいだろうか?講演者の調べた限り,ミクロモデルの動力学から出発して体系的にLévy flightを導出する試みは殆どない.Lévy flightは本質的に非平衡系のモデルであり,非平衡状態の多粒子系動力学を出発点に取ることは理論的に容易でないからだ.そこで講演者は生物物理の非平衡系に対して運動論の枠組みを拡張することで,Lévy flightをミクロモデルから体系的に導出する研究を行った[3].

講演者は流体中の遊走微生物系をモデルケースとして研究した.この設定では遊走微生物が流体力学相互作用を引き起こすことで,非熱的な揺らぎを流体に伝播させる.ここで水中にトレーサ粒子を入れると,流体を伝播した非熱的な揺らぎによってトレーサが変位を示す.講演者のグループはこのトレーサの変位がLévy flightに従うことを,そのミクロ動力学を出発点に統計力学として示した[3].ここでの基本的なアイディアは分子運動論の数理を拡張することである.遊走微生物の分布が希薄になる極限では,トレーサの動きはカラード・ポアソンモデルとして近似的に記述できる.ここでのノイズ中に含まれる力の関数や,ノイズの発生頻度は,非平衡2体散乱過程の力学を解析的に解くことによって求める.このカラード・ポアソンモデルを解析することで,長時間の振る舞いとしてLévy flightが現れることを示した.またこの解析の副産物として,Holtsmark型の静的分布関数論に基づく現象論的アプローチが短時間極限で正当化されることも示された[4].

[1] N.G. van Kampen, Stochastic Processes in Physics and Chemistry, 3rd ed. (North-Holland, 2007)

[2] 川崎 恭治,非平衡と相転移―メソスケールの統計物理学 (朝倉書店,2000)

[3] K. Kanazawa, T.G. Sano, A. Cairoli, and A. Baule: arXiv:1906.00608 (2019)

[4] T. Kurihara et al. Phys. Rev. E 95, 030601 (2017)

日時

2019年5月27-29日(月-水)

場所

東京大学 本郷キャンパス

ワークショップ名

Data analysis and machine learning in dynamical systems (website)

概要

The goal of this workshop is to bring together researchers from data analysis, machine learning, and dynamical systems to discuss recent progress in data analysis of complex phenomena in dynamical systems with large degrees of freedom, and to fill the gap between theories in these fields.

日時

2019年2月8日(金) 16:00~

場所

東京大学 理学部1号館 4階413号室

講演者

大泉匡史氏(株式会社アラヤ)

タイトル

意識の統合情報理論と物理学との接点

概要

電気的・化学的反応の集合体である脳活動から、なぜ主観的な体験(意識)が生まれるのかという問題は、「意識のハードプロブレム」と呼ばれ、科学では解けない問題と考えられてきた。しかしながら、ハードプロブレムそのものが解けない問題であるということは、意識が科学的に研究の対象とはならないということを意味しない。なぜ意識が存在するかを問うのではなく、意識が存在することを前提とした上で、“意識が存在するために物理系はどのような条件を満たさなければならないか”、と問いを変えることで、科学の俎上に載せることができる。統合情報理論(IIT)とは、このような考え方に基づいて構築された理論であり、物理系の中の「情報」と「統合」という観点から、意識の量(意識レベル)と意識の質(クオリア)とを数学的に定量化しようとする試みである。IITは、深い睡眠時に意識が失われるのはなぜか、視覚と聴覚のクオリアの違いは何によって決まるのか、複数の意識(例えば二人の人間の脳)の間の境界はどのように決まるのか、脳の中の意識の座はどこかといった問題に関して、統一的な説明と予測を与える。本セミナーでは、統合情報理論の概要を紹介すると共に、今後の発展と物理学との接点に関して議論したい。